Keiichiro Ihara's Home Page
| Home | エッセイ | 書評 | 論文 | 翻訳 | インフォメーション | ブログ | Mail |
 

『静かな生活』はいかにしてアクション映画になったか?

 本論では大江健三郎の小説『静かな生活』(1990)の伊丹十三による映画化(1995)を取り上げる。原作と映画の比較研究では、しばしば原作と映画の違い、すなわちどれだけ忠実に原作を映像化しえているか/いないかが問題とされる。本論でも原作と映画の違いについて議論するが、その違いがそれぞれのメディアの特性の違いを明らかにすることを目指している。映像化に不向きでほとんど映画化されることのない大江文学と、制作した10本の映画のなかで唯一原作をもつ伊丹映画の比較研究は、ある種の特異点として機能するのではないかと考えられる。すなわち、極めて〈小説らしい小説〉を書いてきた大江の原作を、オリジナル脚本によって〈映画らしい映画〉を撮ってきた伊丹が、いかに変換し、映画化したかをみることは、小説と映画の原理的特性の差異を浮き彫りにするユニークなケース・スタディとなるのではないかということである。

鹿児島大学法文学部紀要「人文学科論集」第80号(2014年)