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重版に際して――アン・フリードバーグに捧げる

 本書『ウィンドウ・ショッピング――映画とポストモダン』は、人文系研究書の出版を直撃している近年の出版不況にもかかわらず、初版からおよそ二年の歳月を経て重版の運びとなった。このことは本書が読者諸氏に歓迎されたということを端的に示している。ここに感謝の意を表しておきたい。また新聞、雑誌、あるいは個人のブログ等で真摯に書評してくださった方々にもお礼を述べておきたい。なお今回の重版に際し訳者は再度読み直しをおこない、多少表現を改めた箇所があることをここで断っておく。

 原書Window Shopping: Cinema and the Postmodernはウィンドウズ95 も世に出ていない一九九三年に上梓されたため、議論上、時代的な制約があることについては訳者一同も承知している。しかし本書の重要性はメディア論の基本文献としての地位を完全に確立したことにとどまらず、二一世紀の世界がますますフリードバーグが述べたような世界へと変貌していっていることを再認識させてくれることにある。

 すでに合衆国のメディアで報じられたことだが、著者アン・フリードバーグは二〇〇九年一〇月九日に結腸直腸癌との闘病生活の末、五七歳という若さで世を去ってしまった。訳者は翻訳の作業中にフリードバーグとメールでコンタクトを取ったのだが、その際に日本語版を心待ちにしているという内容が何度か返信されてきた。訳者としては日本語版を彼女の存命中に出版できたことは感慨深い。人づてに聞いた話によれば、フリードバーグは日本語版の出版を大変喜んでいたそうで、研究室の扉や学部の掲示板に大きくそれを知らせるポスターを掲示していたという。

 最後に、学魔高山宏が「あまたいる『窓』論者中、最もアクチュアルな研究者と言う べき人である」と評したフリードバーグのもう一冊の代表作The Virtual Window: From Alberti to Microsoftの翻訳出版がすでに予定されていることを申し添えておきたい。

二〇一〇年六月
訳者