2016年7月13日(水)フランクフルター・ルントシャウ紙

それはEUのせいではない!

多くの人々はEUがこれまでどのような恩恵をもたらしてくれたかを忘れている。そして、邪魔をするのがしばしば加盟国の議会であることを見過ごしている。

スカ・ケラー(寄稿)

もし欧州連合がなかったとしたら、私たちはそれを作りださなければならないところだ。なぜなら手を携えてこそ私たちは今日の課題に取り組むことができるからだ。気候変動であれ、租税回避であれ、難民問題であれ、金融危機であれ、グローバル化であれ。こうした課題はどんな国も一国では解決できない。そのためには協力が必要となる。自分の国は単独の方が上手く行くと考える人はいるにせよ、外からのグローバル化を防ぐにはどんな高い壁も役に立たないのだ。

しかし私たちがこうしたEUの存在意義を語ることはめったにない。代わりにEUはいつも官僚主義の怪物として批判され、みな、支払うのは自分たちばかりで、ほかのみんなはEUの恩恵を受けている、と考えているように見える。これは誤った考えである。間違いや問題はあるにせよ協力した方が良いと考えるならば、私たちはこうした歪んだ認識に反論せねばならない。

しかし目標を掲げるだけでは不十分だ。欧州連合はこの目標の実現に向けて積極的に努力しなければならない。意欲的な環境目標、連帯的な難民政策、人々がグローバル化の敗者にならないような社会的公正。こうした課題の克服においてほんとうの前進を示せた場合にのみ、私たちは信頼を獲得できるのだ。

もちろんどうしたらこの目標を実現できるか、その最良の方策に関してはさまざまの党派が基本的に異なる考えを持っている。そのためにはどの考えを支持し、どれを支持しないか、欧州市民男女が考えを巡らせるよう、政治的な論争が必要になる。

ここに至れば「どのように」という手法が問題となる。どのように決定を行うかは、あらゆるレベルの政治の信用性にとって極めて重要である。私たちは欧州議会においてこの件で改善を図る必要がある。たとえ欧州議会が公開性と透明性で加盟国の議会に引けをとらないにしても。たとえば欧州議会の各委員会は公開であり、ネットで中継される。委員会の文書は自由に閲覧できるし、議会の決定については誰がどのように投票したかも簡単に分かる。

しかしEU閣僚理事会は全く異なる。EU加盟国の閣僚が集まる理事会は非公開である。どの加盟国がどのような意見を主張したかはまったく分からない。したがってある閣僚が自国の議会で主張した立場と、ブリュッセルのEU閣僚理事会における密室での採決行動がまったく異なることもありうる。閣僚はその後、欧州委員会や他の加盟国の閣僚に責任を押し付けることができるのだ。

すべては密室で

もっとひどいのは、きわめて大きな危機を協議するために各国首脳が集うEU首脳会議である。ここには加盟国の議会すら一人の代表を送ることもできない。各国の首脳らは立法府、すなわち加盟国議会の意向を無視して決定を行い、その後で知らん顔をすることもできる。

このようなやり方はもはや認められない。EU理事会の一層の透明性が緊急に必要だ。閣僚の会合も欧州議会の委員会と同様、公開にする必要がある。結局のところ、どちらの委員会も同じ任務を担うのだから。すなわちEUの立法を協議し、決定するという任務である。

加盟国の閣僚は自分の手の内をあかさねばならない。加盟国の議会ならびに有権者が、自分たちの閣僚が採決に当たってどのような意思表示をしたか、またどのような修正を求めたかを確認できるようにしなければならない。そうしてこそはじめて私たちは説明責任を果たすことができ、議会と有権者による真の民主的なコントロールが可能になるのだ。そうすれば加盟国政府が不人気な政策をすべてEUのせいにしたり、成果をすべて自分の手柄にしたりすることもなくなる。また自国の議会で承認を得られないような提案をEUで行うこともできなくなる。

しかしEUは単なる機構制度をはるかに超えるものである。EUは私たち全員なのだ。私たちの多くは、旅行の自由や他の国の人々との出会いや環境保護など、諸々の成果を自明のものと見なしている。英国のEU離脱により私たちは気づいた。「この離脱の道ではない。EUは後戻りできない。EUは危うい柱の上に立っている。私たちは何か行動しなければならない。その存続のため、またその改善のために」と。

なぜならEUでは上手く行っていないことがたくさんあるからだ。機構制度でも内容の面でも。盲目的な緊縮政策も、難民の締め出しも、EUに賛同する人々を大きく増やしたわけではない。当然だ!しかしつぶさに見てみれば明らかになることがある。問題はEUの諸機構とは無関係ということだ。

たとえば欧州議会の多数はずっと前から難民の安全なEU入国ルートを求めてきた。問題は昔も今も加盟国の側にあることがしばしばだ。難民の受け入れを拒み、公平な租税制度に反対し、温暖化防止策では閉じこもり、ギリシャの財政再建には一息つく間も許さない。

したがってEUが上手く進むためには皆がひとしく取り組まねばならない。ブリュッセルのEU諸機構、EUの加盟国、すべての加盟国の議会、ならびに手を携えてこそ大きな成果を挙げられると考える私たちすべてである。私たちEUの人間は、互いを隔てるものより共通するものの方が多い。手を携えることにより私たちは多くの成果を挙げてきた。平和を築き、民主主義を目指して進む国を助け、人々を近づけ、国境を克服してきたのだ。

私のような国境地帯の出身者は、それが何を意味するのかよく知っている。EUは開放性、協力、連帯の象徴である。そのために闘う価値はあるのだ。

原題:Die EU kann nichts dafuer!

*スカ・ケラー(フランツィスカ・マリア・ケラー):1981年東ドイツ、グーベンGuben出身。2009年より欧州議会議員。2014年5月の欧州議会選挙では欧州緑の党の筆頭候補。




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