2014年6月6日(金)
Die Welt (Online)
訳注:ヴェルト紙Die Weltの表記題名の記事から、ヨーロッパの経済学者、哲学者、法学者によるジャン・クロード・ユンケルの欧州委員長任命を呼びかけるアピールを以下に訳出する。
リスボン条約は欧州理事会〔EU首脳会議〕が欧州委員長の候補者を提案し、その際「欧州議会選挙の結果」を考慮すると定めている。さらに条約は「欧州議会はこの候補者を議員の多数決によって選出する」と付け加えている。
欧州連合の各国政府がこの文言をEU条約に盛り込んだとき、これは一般に過去との望ましい断絶と評価された。というのもこれ以降、最も影響力の大きいEU執行機関の長〔欧州委員長〕の任命がより開かれた、より民主的な手法で行われることになったからである。
数ヶ国の首脳のように、この条約変更は今日では意味を持たないなどと主張することは不誠実であると私たちは考える。彼らの要求は、加盟国首脳が欧州委員長を選出するのであり、欧州議会はこの選択をただ批准するに過ぎないというものである。この解釈によれば欧州議会は拒否権を持つが、提案権は持たないということになる。
しかし欧州議会選挙の前、大政党はそれぞれ欧州委員長の候補者として筆頭候補を選出することにより、これとは別の見解を取っていた。この視点によれば、欧州理事会は選挙の結果を考慮せねばならず、これにより欧州の男女市民は、依然唯一EU法の提案権を握る欧州委員会の委員長の任命に発言権を得たことになる。
前者〔数ヶ国の首脳〕の見解は、「ブリュッセル」〔EUを指す〕が欧州男女市民には手の届かない決定を下すという認識を裏付けるものである。もうひとつの見方〔欧州議会諸政党の見解〕は、主権を欧州男女市民に返還することを意図している。これは欧州理事会のひときわ高い権限を、民主的に選出された欧州議会によって調整し、バランスを取るという目的がある。
新たなEU条約〔リスボン条約〕の精神に基づき、欧州議会の諸会派は選挙前にそれぞれ欧州委員長候補者を立てた。この候補者はヨーロッパ大陸をめぐり、熱のこもった選挙戦を展開した。幾度もテレビ討論会が行われ、マスメディアは候補者の演説を吟味した。加えて、これが決定的に重要なのであるが、候補者は欧州連合の方向性をめぐり論争を行った。端的に言えば、これはEUにおける民主政治の誕生であった。
確かにこのシステムは完全ではない。にもかかわらず勇気づけられる始まりであった。こうして始動した民主的プロセスはさらに強化され、時とともに欧州の男女市民に今以上にEU政策に深く強く関わる可能性を与えるであろう。
それゆえ私たちはEU加盟国の首脳に対して、この新しい民主的なプロセスを誕生と同時に葬らぬよう訴えるものである。私たちは欧州議会の議員に対して、最多議席を獲得した政党の候補者の回りに集結するよう呼びかけるものである。欧州人民党が今回の選挙で最大の会派となった。したがって欧州理事会は欧州人民党の候補者を欧州委員長として提案すべきである。すなわちジャン・クロード・ユンケルである。
これは新たな条約の精神に則るものであり、また憲法で規定された大多数の加盟国の行政府の長の選出方法とも一致するものである。すなわち、議会選挙の結果を受けて、大統領もしくは君主が最大党の候補者に多数派形成を行うよう呼びかけるという方法である。
ジャン・クロード・ユンケル以外の人物を欧州委員長として提案することは、EU諸条約の前進を否定するに等しい。加えて、それはどのみち不安定なEUの民主的基盤を掘り崩すことになろう。そうなればEU懐疑派の欧州大陸全土でのさらなる伸長に手を貸すことになるだろう。
〔署名者〕
シュテファン・コリクノンStefan Collignon
サイモン・ヒックスSimon Hix
ユルゲン・ハーバーマスJurgen Habermas
コスタス・シミティスCostas Simitis
ロレンツォ・ビニ・スマギLorenzo Bini Smaghi
トニー・ギドンスTony Giddens
クラウス・オッフェClaus Offe
ウルリヒ・ベックUllrich Beck
ハンス・ヴェルナー・ジンHans-Werner Sinn
クリスティアン・レクヴェーネChristian Lequene
ブライアン・アンウィンBrian Unwin
アントニオ・パドア・スキオッパAntonio Padoa Schioppa
ゼバスティアン・ドゥリエンSebastian Dullien
ウルリヒ・プロイスUlrich Preuss
ナディア・ウルビナーティNadia Urbinati
ロベルト・カスタルディRoberto Castaldi
エットーレ・グレコEttore Greco
ルツィオ・レヴィLucio Levi
ジャンフランコ・パスキノGianfranco Pasquino
エンリコ・カロッシEnrico Calossi
マッシミリアーノ・グデルツォMassimilano Guderzo
ジュゼッペ・マルティニコGiuseppe Martinico
フランチェスコ・グイFrancesco Gui
ダニエラ・シュヴァルツァーDaniela Schwarzer
フラヴィオ・ブルノリFlavio Brugnoli
グレアム・ビショップGraham Bishop
バーナード・ストゥーネンバーグBernard Steunenberg
グスタフ・ホルンGustav Horn
グレアム・アヴェリGraham Avery
カール・カイザーKarl Kaiser
パウル・イェーガーPaul Jaeger
ジョン・ローリンJohn Loughlin
レイラ・シモーナ・タラーニLeila Simona Talani
フランシスコ・ペレイラ・コウティノFrancisco Pereira Coutinho
ジェロニモ・マイリョJeronimo Maillo
エドアルド・ブレッサネリEdoardo Bressanelli
マリオ・テロMario Telo
ピエロ・グラリアPiero Graglia
バートラン・ド・メグレBertrand de Maigret
ステファニー・ノヴァークStephanie Novak
アナベル・ラフェレールAnnabelle Laferrere
マテイ・アヴベリMatej Avbelj
スティーヴン・ハスレラーSteven Hasleler
ポール・ド・グローヴェPaul De Grauwe
ゼバスティアン・ディースナーSebastian Diessner
*〔 〕内は訳注を示す。
*人名の発音と表記に関しては不明のものも多いので、欧文表記を添えておく。なおここに訳出したのは、この記事で引用された声明文のみである。
原題:Professoren fordern Juncker als Kommissionschef
Die Welt (06.06.2014)