2016年6月7日(火)
ヴェルト紙 Die Welt、ニコラウス・ドル記者
もうじき私たちは欧州連合がカレーで終わるのか、あるいはケンブリッジやコヴェントリーまで達しているのかを知ることになる。6月23日に英国はEU離脱を問う国民投票を実施する。
それによってEUの一部が切断されるのか、あるいは自身が孤立するのか、これは見方によって異なる。多くの英国民にとって統一欧州は決して大きな関心事ではなかったので、選挙当日はあらゆる結果がありうる。EU離脱への賛成であり、英国抜きのEUである。
本来考えられない想定である。そうなればEU終焉の始まりである。EU全体、それどころか世界的な景気後退の引き金になるかもしれない。少なくとも多くの政治家や経済界のリーダー、あらゆる分野の専門家はそう主張する。
しかしこのような恐怖のシナリオはナンセンスである。英国がEUを離脱したいのなら離脱すればよい。英国の脱退はEUにとって破局などではない。むしろ救済である。英国の離脱は欧州連合の強化につながる可能性もある。
数年前から英国はEUを敵視し、自国で上手く行かないことをすべてブリュッセル(EU)や欧州大陸のせいにしてきた。数十年前から英国は他の加盟国が手にしていない特権を確保してきた。これは1973年の英国のEC加盟以来、変わらない。
EU反対論者をなだめ、親EU的なデイヴィッド・キャメロン首相を支えるべく、今年からはさらにおまけもついた。その結果、英国に定住するEU市民を最長で4年間社会保障の対象から外すことが認められた。英国はまた要求を押し通したのだ。
しかし、トーリーであれ保守であれ、どのような権利に基いて英国政府はこのような特別扱いを要求できるのだろうか?なぜ他のEU加盟国は定期的に恐喝されるがままになっているのか?英国の人々はこう考えるだろう、「我々はそうできるのさ、そう認めてくれるから」と。
ひとつは我々がかつては大国だったから。たとえ我々の子供の世代にとっては、それがスペインの大国時代ほど昔のことに感じられても。またひとつは英国がEUにつなぎ留められているのは大陸にとって特権だから、と。しかし実際はEUの一部であることの方が特権なのだ。たとえこの共同体がしばしばまともに機能せず、改革が必要だとしても。
もしかしたら英国民に対して国民投票の前に、EU加盟国が享受しているすべての特権や大きな共通市場が提供する利点を思い起こさせるべきかもしれない。あるいは英国がヨーロッパの「病人」としてECに加盟し、EUの補助金で立ち直ったという事実も。
いずれにせよ、英国政府に対して、英国は離脱後はすべての特権を失うということははっきりと伝えるべきであろう。人、モノ、サービス、資本の自由な移動の権利。すなわち私たちの戦後の繁栄の発端である「四つの自由」である。
英国が脱退を選択するなら、もはや域内市場への特権的な参入や、ノルウェーやスイスに認めているようなEUとの密な協力も認めてはならない。労働者の移動の自由。これはもうない。英国からの商品に対する関税。これはもちろんである。しかも高額の。
イギリス人に対するビザの義務?もちろんだ。ロシア人に対するのと同様に。誇りが傷つけられたからではなく、EUの小国分立とも関係ない。これは単に自己防衛なのである。英国が離脱で引き起こしかねないドミノ効果を防止する唯一の方策なのだ。さもなくばデンマークやアイルランド、フィンランドが後に続くかもしれない。
というのも、こうした国では、英国の離脱支持者がほんとうは何を目論んでいるのか、EU懐疑派が耽々と窺っているからだ。EU懐疑派は自国をEUから解放し、すべてのEUへの支払いを停止し、完全に自分のしたいように問題解決を図りたいと考えている。しかし引き続き自由な市場参入、あるいはEU内の労働者の移動の自由は享受したいと考えているのだ。
それも自分たちに役に立つ分野だけだ。つまり彼らが望んでいるのは軽度の離脱、「離脱ライト」である。EUの交渉人のやり方を知っている者なら、これが予想通りに運ぶことも分かっている。ひっきりなしに妥協を模索するうちに頭が朦朧とし、最終的には英国との連合協定のようないかがわしい妥協に応じるだろうということを。
しかしこれこそが本当の危険である。どれほど弱々しく不統一に見えても、EUは多くのことを耐え抜くことができる。経済危機、ユーロ下落、破産国家、あるいは武力で脅しをかけるプーチンにも。それどころか絶えず横やりを入れる英国政府にさえも。
ただEUが耐えられないものが一つある。それは自発的に脱退しながら、特別規定を山ほど得る国である。なぜならそうした前例は他の国々を同様の離脱へと促すことになるからである。そうなればもはや止めることはできない。
英国の離脱は最初は大きな打撃になることは間違いない。欧州人の意識と欧州合衆国のビジョンを持つ人間で、英国の離脱を望むものはいない。
域内市場が繁栄にどのような意味を持つかを知っている人間ならば、英国抜きのEUには何ら利点を見出せない。英国は総生産ではEU第3位の経済大国であり、ロンドンはEUの金融の中心地なのだ。
英国民にとって都合が良かろうが悪かろうが、英国はヨーロッパの一部である。すでに地理的にも。ごく細い海峡が隔てているとしても、この事実に変わりはない。もし今後、キプロスを含むEUがシリアの沿岸まで延びながら、ドーバー海峡で終わるとしたら、これほどの冗談はない。
にもかかわらずEUは北西部を失ったとしても機能する。なぜならEUにおける英国の意味を過大評価すべきではないからだ。英国政府は常に特別な要求を、英国が毎年納める巨額のEU拠出金を理由に正当化している。
しかしEUの予算を詳しく見てみれば、拠出大国としての英国の姿は影が薄くなる。拠出金の総額で見れば、英国は確かに最大の実質負担国のひとつに数えられる。英国を上回るのはドイツとフランスだけ、ただし英国よりずっと負担しているが。だが、国内総生産比では英国はせいぜい10番目の実質負担国でしかないのだ。
離脱となれば確かに英国の拠出金がなくなる。だがその代償としてEUは国家連合としてさらなる繁栄を遂げるチャンスを獲得できる。おそらくその時には、加盟国のご機嫌取りや離脱引き留めにエネルギーを費やす代わりに、ようやくこのEUを改革する体力が残っていることだろう。
原題:Liebe Brexit-Briten, dann geht doch endlich! Von Nikolaus Doll