フランクフルター・ルントシャウ紙 2015年5月29日 社説
アンドレアス・シュヴァルツコプフ
欧州連合は改革する必要がある。そうなればEU批判論者の数も減少するだろう。キャメロン首相のような政治家は誤った提案で彼らに迎合してはならない。
デイヴィッド・キャメロン首相は正しい。欧州連合はすべての人のために改革する必要がある。しかし英国首相との意見の一致はここまでである。これまで公表された唯一の提案において、キャメロン首相はEUの成果を攻撃する。首相は大真面目にEUの移動の自由を、当初の計画と自身が考えるものに立ち戻らせるよう要求する。
キャメロン首相によれば、EU市民に認められているのは他の国で仕事を探す権利でしかなく、「最高の社会保障を選ぶ権利ではない」という。もっと具体的に言えば、貧しい国から来た人間は4年間社会保障費を納めなければ、養育手当をもらえないというのである。
こうした卑劣な論拠でキャメロン首相が狙う目標はいくつかある。首相はまず、移民が労働による賃金で自分の生活やしばしば母国の親戚の生活をまかなおうとしているのではなく、補助金目当てに来るのだと主張する。またすべての責任は外国人にあるというポピュリストに媚を売る。もちろんキャメロン首相のような政治家はずっと良く分かっている。しかし自ら邪道を選ぶことで選挙の勝利を買い取ろうとするのだ。
この戦略はキャメロン首相のためにもならない。今やかつてのEU支持者はEU批判者として欧州を回り、他の加盟国の首脳と交渉して、自国の有権者を満足させる何らかの成果を引き出さねばならない。しかる後に国民投票に臨み、英国のEU残留を訴えるというわけである。キャメロン首相がその手土産で誰も納得させられず、かえって政治家に対する自国民の苛立ちに油を注ぐ事態を招くことは、予言者でなくとも予想がつく。
そうではなくキャメロン首相や他のポピュリストまがいの政治家は、市民を納得させられるコンセプトや未来志向の改革を提起して人々の支持を得るべきである。こうした改革がEUには緊急に必要なのだ。その際、基調はキャメロン首相やEU反対論者が主張する「統合を薄めれば成果が増す」ではなく、むしろその反対となるべきだ。
欧州統合を薄めることは結果として、克服したはずの加盟国のエゴイズムを再び活気づけることになる。そのような事態を真剣に望むものはいない。国ごとにばらばらになれば、ヨーロッパ大陸の大きな問題に対処できなくなる。経済的にも政治的にも、小さな国々はグローバル化の時代に生き残るのが難しい。それが信じられなければ、ギリシャのEU脱退を考えてみれば良い。誰も脱退によって、危機に揺らいでいるギリシャが好転するなどとは考えないだろう。
したがってEUのモットーは「我々は一致団結してこそ強く」でなければならない。そのためには同盟をさらに発展させることが望ましい。たとえば経済分野では緊急に構造的欠陥を解消し、もうそろそろ真の経済同盟を実現すべきである。ユーロ導入の際、コール元首相のような責任ある政治家は、欧州中央銀行などがインフレの撲滅をはかれるよう配慮していた。
欠落しているのは、輸出入超過をも考慮した欧州連合共通の経済政策である。現在ドイツは毎年数百億ユーロの商品を隣国に輸出している。一方ドイツの隣国はこうした商品を買うために、負債を背負うことになる。この不均衡を正常なバランスに戻し、国や地域ごとの隔絶がこれ以上広がらないようにしなくてはならない。その際、一種の加盟国間の財政調整が有効となるだろう。加えて、経済同盟によって共通の財政運営規則を設け、実施するのが望ましい。
このような同盟関係が存在したならばこれほどのギリシャ危機には至らなかったということは、ほんの少しの想像力があれば理解できるだろう。EUは多くの問題から免れていたはずである。
政治家が勇気を持って一層の民主主義を推進することも問題解決に役立つだろう。欧州議会と新たな欧州委員会は数年来の格闘の末、加盟国政府の影響からほんの少し解放された。しかし欧州市民の直接の影響力は依然きわめて低いままである。
いわんや難民庇護の問題では著しい遅れがある。EUはEU外部国境における難民悲劇が毎年毎年繰り返されぬよう、「ヨーロッパ要塞」というコンセプトを考え直す必要がある。むしろヨーロッパは移民流入の大陸と位置付け、移民をコントロールしながら受け入れるべきである。
しかしEUは赤字ばかりではない。安全保障政策はウクライナ危機の間、いくつかの点で正しい方向に進んだ。EU加盟国は加盟国間の相違にもかかわらず、ロシアとの協議では一枚岩で臨んだのである。
必須の改革を行えば、EUに対する不満やEU批判論者やEU反対者の数を減らすことができるだろう。だからキャメロン首相のような政治家は、誤った改革提案を行って彼らに迎合することがあってはならないのだ。
原題:EU Grossbritannien David Cameron
Wo Cameron recht hat - und wo nicht