2016年5月29日(日)

シュルツ欧州議会議長:「欧州連合は深刻な分断状況にある」

ヴェルト紙(Die Welt)

欧州議会のマルティン・シュルツ議長はトルコ政府に対し強硬な姿勢を崩さない。社会民主党(SPD)所属のシュルツ議長はSPDの首相候補になるつもりはない。自分の持ち場はブリュッセルだ−この危機の時こそ、と議長は言う。

アンドレア・ボナニ、ユレク・クチキエヴィッチ、クリストフ.B.シュリッツ、アンドレ・タウバー記者

ブリュッセル、ヴィエルツ通り、欧州議会11階。マルティン・シュルツは時間に追われている。たった今、欧州議会議長はイギリスのゴードン・ブラウン前首相と会談を終えた。ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は議長からの電話を待っている。職員が議長のオフィスの前にひしめいている。しかしシュルツ議長は冷静だ。流暢なフランス語でベルギーテレビ局のインタビューにすばやく応じる。「お入りになっていてください。すぐに行きます」とシュルツ議長は言う。

ヴェルト日曜版紙:シュルツさん、オーストリアの大統領選挙では緑の党の親EU派の候補が紙一重の差で右派自由党(FPO)の候補者を破りました。不安に思いますか?

シュルツ議長:反EU派がオーストリアで敗北したのです。紙一重の差ながら。想像してみてください。もし別の結果であったならば、世間はEUの終焉だと大喜びしたでしょう。しかしオーストリアはポピュリストを打ち破れることを示したのです。それも明確なEU支持の選挙運動を行ってです。

ヴェルト日曜版紙:しかしますますポピュリズム政党は勢力を伸ばしていますね。EUのこうした状況をどう説明なさいますか?

シュルツ議長:欧州連合は深刻な分断状況にあります。加盟国の政府は共同の路線で合意を図ろうという方向性も意思も欠いています。

ヴェルト日曜版紙: どこに原因があるのでしょう?

シュルツ議長:これは政治的な分断です。EU加盟国の政府は異なるイデオロギーのコンセプトを追いかけています。部分的にはEUについて根本から異なる考え方を持っています。たとえばポルトガルとポーランドの政府を比較してみてください。また、まったく対照的な経済の考え方もあります。一方は加盟国の歳出削減こそ最良の方法と言い、他方は雇用への投資なくして財政の立て直しなしと主張します。この分断が私の大きな心配の種であり、EUを危うくしているものです。

ヴェルト日曜版紙: EUは10年後まだ存在しているでしょうか?

シュルツ議長:ええ。

ヴェルト日曜版紙: その時は違った共同体としてですか?

シュルツ議長:私は神託を下す人間ではありません。1ヶ月後の予測ができれば私には十分です。

ヴェルト日曜版紙: EUは抜本的な改革が必要でしょうか?

シュルツ議長:ええ。私たちは英国の国民投票が終わったら、欧州連合の機能のあり方について、原則的な議論を行わねばなりません。EUは改革が必要です。私たちには新たな経済秩序が必要であり、ユーロ圏の深化が必要です。19もの異なる労働市場政策、予算政策、投資政策を抱えた通貨同盟。これが上手く行くはずがありません。互いにもっと強くかみ合わせて、すり合わせを行う必要があります。

ヴェルト日曜版紙: EUの残留を問う英国国民投票が終わったら、第1日には何をするのでしょう?

シュルツ議長:国民投票がいかなる結果になろうともユーロ圏の改革が必要です。

ヴェルト日曜版紙: それに手を付けなかったらどうなりますか?

シュルツ議長:あなたはいつも聞いてばかりですね、「もしこれこれだったらどうなるか?」と。たとえばEU内で税のダンピングや税率低減競争に歯止めをかける最低税率を定めた税制が中期的に実現しなかったら、あるいは加盟国が今後とも税制を自国だけの権利と主張するならば、そしてもし租税回避に終止符を打つ共同の規則を定められなかったら、私たちの社会の不公平感はさらに増すことになるでしょう。

ヴェルト日曜版紙: それはドイツでも広がっていますね。SPDは世論調査ではドイツ全土で約20パーセントまで支持を減らしました。何をすべきでしょう?

シュルツ議長:SPDは正しいことを行っています。2013年の私たちの選挙公約は一歩一歩政府内で実現を見ています。それによって数万人が恩恵を受けました。これはかつてないほどの選挙公約の実現と言えます。にもかかわらず世論調査の結果は良くありません。しかしこれはキリスト教民主同盟(CDU)についても言えることで、同様に有権者の支持を大きく失っています。

ヴェルト日曜版紙: なぜSPDの支持率はこれほど低くなったのでしょう?

シュルツ議長:大連立政権は支持を失う、これはちょうどオーストリアでも認められたとおりです。支持率の低下はSPD特有の現象というわけではなく、右から左まですべての政党に当てはまる現象です。

ヴェルト日曜版紙: なぜそうなるのですか?

シュルツ議長:それこそ私たちが自問せねばならない問いです。「なぜ人々は私たちをもはや信頼しないのだろう?なぜ私たちには解決策など見つからないと考えているのだろう?なぜもはや私たちには一層の社会的な公正の実現など期待できないと考えるのだろう?」と。

ヴェルト日曜版紙: シュルツさん、あなたの考えるSPDの将来像はどんなものでしょうか?

シュルツ議長:SPDはさらに大衆の政党になる必要があります。一生懸命働き、規則を守り、国が要求することを行っている大衆のための政党に。こうした人々の多くは現在、自分たちが尊重されておらず、誰も自分たちのことなど気にかけていないと感じています。私たちSPDは方向を失った時代にあってこうした人々に方向性を示さねばなりません。私たちは公正な税制や家族や教育機会の改善のために戦ってくれる政党だと人々から期待されるようにならねばなりません。これが今後社会民主党がEU内でさらに強く伝えるべきメッセージなのです。多くの人々はどこかにつぎ込まれる数十億、数百億のお金しか問題にされないと感じています。これはひと月わずかの額しか使えない大方の人々には想像もつかない額です。こうした人々の世界がSPDの世界にならねばならないのです。

ヴェルト日曜版紙: SPDの首相候補者となることは名誉ある仕事です。引き受けるおつもりはありますか?

シュルツ議長:SPDはきわめて強力な党首を擁しています。私はジグマー・ガーブリエル党首を全身全霊を挙げて支援します。SPDは多くの人々の支持を回復するでしょう。そう私は確信しています。

ヴェルト日曜版紙: あなたが首相候補になってですか?

シュルツ議長:私の予定表が詰まっていることはご存知でしょう?自分の将来のことをゆっくり考える時間などあまりないのです。私は32年間、自分の政治キャリアのすべてをEUに捧げてきました。目下EUは決して良い状況にはありません。私はこの状況を改善することで自分の務めを果たそうと試みています。私の持ち場はブリュッセルです。私の目標は常に、欧州議会がEU市民から直接選ばれた代表として欧州委員会やEU首脳会議と対等にわたり合うことです。この4年半、この点で私たちはかなりの進歩を見たと思います。

ヴェルト日曜版紙: そうした進展が危うくなるテーマが難民問題です。トルコはEU渡航のビザが10月に免除されなければ、難民の密航ルートを再開する一方、欧州からの難民送還には応じないと脅しをかけています。しかしビザ免除のためにはトルコ政府は72の条件を満たさねばなりません。どうなさいますか?

シュルツ議長:トルコはこれまで、ビザ免除承認のための重要な前提条件を満たしていません。私たちは、トルコ政府がとりわけ個人情報保護と反テロ法の問題で明確な改善を行うことを期待しています。関係する法律の改正についてトルコ議会の協議をただちに開始すべきです。もしこれが行われなければ、EUの諸機関はもはや行程表を守ることはできないでしょう。そうなれば、10月にトルコ国民に対するビザ免除が実現するとは思えません。

ヴェルト日曜版紙: エルドアン大統領はこの件で協定を破棄すると脅迫しています。

シュルツ議長:政治において脅迫は適切な方法ではありません。EUはひるむことはないでしょう。むしろその反対です。私たちは、ビザ免除のための72の条件がすべて100パーセント満たされるよう強く求め続けます。ぶれることはありません。

ヴェルト日曜版紙: その過程で欧州議会はどのような役割を果たしているのでしょうか?

シュルツ議長:トルコに対するビザ免除は欧州議会の承認が必要となります。トルコ国民に対するビザ免除のための72の条件が残らず実行されなければ、欧州議会は協議にも入りません。トルコ政府が反テロ法を改正してはじめて、欧州委員会のビザ免除提案は所轄の法律委員会に送られることになります。

ヴェルト日曜版紙: しかし、また数十万人の難民がヨーロッパに押し寄せるというリスクを抱えることにはなりませんか?

シュルツ議長:興味深い質問です。一体、難民協定を危機にさらしているのは誰でしょう?エルドアン大統領こそ、トルコの人々がビザ免除を受けられなくなるかもしれないという危険を冒しているのです。なぜなら自らの政権が欧州連合との間で結んだ合意を守ろうとしないからです。トルコ政府は72の条件を満たすと明確に約束したのです。これが効力を持つのです。

ヴェルト日曜版紙:どうであれ、最後には新たな難民の大量流入が起きる恐れがあります。

シュルツ議長:私はトルコ政府が最終的にEUとの協定を破るとは考えていません。シリア難民はトルコ国内で非常に良い扱いを受けています。難民をきちんと登録し始めたトルコ政府が今後密航業者と公に協力したり、人々が命の危険を冒してヨーロッパに渡ろうとするのを認めたりするとは私には考えられません。

ヴェルト日曜版:エルドアン大統領は独裁者でしょうか?

シュルツ議長:私はその表現は使いません。しかしトルコは独裁国家への道を進んでいます。エルドアン大統領の目的は絶えざる自己の権限強化です。トルコのすべての決定機関が一人の人間によって独占される。これは到底受け入れられません。

原題:"Die Europaeische Union ist tief gespalten"




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