2006年12月4日(月)07:16

欧州憲法:頓挫したビジョン

ブリュッセル(AP)

ドイツのアンゲラ・メルケル首相はどちらかと言えば冷静な人として知られている。しかし先日ルクセンブルクでEU憲法について演説したとき、首相の口調にはかすかに熱狂的な響きが聞こえた。「憲法条約という言葉」はひとつの信条を象徴する。「それは共通の価値観であり、これを私たちは対外的にも共同で打ち出すのだ」。

しかしメルケル首相は、EUには「ビジョンとして始まったが、現在一時中断しているもの」が数多く存在するとも述べた。この言葉は、フランスとオランダの国民投票による批准否決から1年半を経ても、依然その行方が不透明な憲法条約のことも指している。ドイツ政府は来年上半期のEU議長国任期中に、この条約を歴史の屑籠から救うという難しい任務を負うことになる。

メルケル首相がすでに明言したように、最終的な解決がドイツの議長任期中にもたらされることはないだろう。首相は公には「次の欧州議会選挙の前」のEU憲法成立を望んでいる。すなわち残された時間は2009年までである。しかしドイツ政府に委ねられた課題は、憲法の将来に関する議論に道筋をつけることである。今年夏のEU首脳会議でメルケル首相と他の加盟国首脳は、ドイツ政府が遅くとも2007年6月の議長国任期満了までに憲法条約救済の提案を含む報告書を発表することを決議した。

だがこの同じ首脳会議では、憲法条約に対していかに様々の議論があるかということも明らかになった。フランスやオランダばかりではない。当時チェコのヴァーツラフ・クラウス大統領はブリュッセルで新聞記者を前に、憲法は「テーマとならず」、憲法条約の批准はチェコでは「議事日程に上らない」と述べた。ポーランドのレフ・カチンスキ大統領も繰り返しEU憲法への反対を表明した。憲法条約は現在の条文では「まったく見込みがない」と大統領は今年3月、大統領就任直後に訪ねたドイツで述べている。

これに対しドイツ政府は、現在の憲法条約をできるだけ今の形で保持したいと考えている。メルケル首相も他の閣僚も、協議から成立まで2年以上の歳月を要した憲法条約を解体することのないよう警告を行なっている。考えられる代案は、むしろ憲法条約に何かを付け加えることであるという。しかしどのような付帯条項を付ければ、人気の薄い憲法が魅力的になるのかは依然不明である。

同様に先般社会民主党(SPD)のクルト・ベック党首が提案した名称変更も成功の見込みは不透明である。ベック党首はこの条約を「憲法」ではなく「基本法」と呼ぶよう提案した。確かにこの提案はEU政治家の関心を惹いた。「憲法の語には国家という含意があり、超大国EUが生まれるのではないかという不安を呼び起こす。『基本法』なら危険な響きはずっと薄まる」と欧州議会のグレアム・ワトソン自由党議員団長はAP通信に語った。しかし一方でワトソン議員団長は、たとえ別の名称にしたとしても、出身国のイギリスでもいまだEU憲法批准の機は熟していないと釘を刺すことも忘れなかった。

原題:Eine Vision, die feststeckt




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