2000年5月12日(金)

「クォ ヴァディス オイローパ?」

クラウディア・ケマー

フィッシャー外相は拡大後のEUの将来を構想  欧州連合の「重力の中心」は柔軟構想のさらなるヴァリエーション

AP通信員クラウディア・ケマー

ブリュッセル(AP)

 名前はどうあれ、基本的考えは同じである。「中核ヨーロッパ」、「様々な速度のヨーロッパ」、「中心的サークル」または「可変幾何学」のヨーロッパという呼び方で構想されているのは、最大で30カ国に至る欧州連合の拡大を睨み、統合を希望する国々に対してはより深化した協力の可能性が開かれるべきである、という考えである。フランスが、EU議長国就任を6週間後に控え、柔軟化構想をあたためている一方、ヨシュカ・フィッシャー外相も金曜日に「重力の中心」という理念を掲げ、将来のEUを構想するグループに加わった。

 「クォ ヴァディス オイローパ?(ヨーロッパよ、いずこへ?)」とフィッシャーはベルリンで問いかけ、 即座にその答えを披瀝した。「欧州統合の完成まで前進あるのみ」と。しかしその響きほど、フィッシャーのEUの将来についての青写真は単純ではない。第一の論点は、10カ国の東欧・中欧の加盟候補国およびマルタ、キプロス、あるいは将来的にはトルコをも受け入れた後も、結びつきを維持することであり、第二の論点は、すでに「魂も顔もないヨーロッパ官僚体制(ユーロクラティー)」と批判を受ける欧州連合とヨーロッパ市民との間の完全な乖離を防ぐことである。

 フィッシャーの「フィナリテート」すなわち欧州連合の最終的状況のビジョンは、憲法協約を持つ国家同盟と二院制の欧州議会、およびヨーロッパレベルで処理されねばならない案件に限定した「スリムな」ヨーロッパ政府である。国家間の関係においては、どの国をも排除しない重力の中心の形成を唱える。参加を希望しながら前提条件を満たすに至らない国に対しては、支援政策がとられねばならない、と外相は主張する。

 いわゆる柔軟条項は新しいものではなく、すでに1997年のアムステルダム条約に盛り込まれている。しかし同条約では「進展した協力関係」には厳密に境界が設けられている。進展した協力関係は最終的な手段としてしか認められず、少なくとも加盟国の過半数を含むものでなくてはならず、共同体の権限領域を侵さず、また競争による関係悪化を引き起こすものであってはならないとされている。さらに一加盟国がその拒否権を行使して協力関係の進展を阻止することもできる。こうしたハードルのため、柔軟条項はこれまではいわば絵に描いた餅であった。しかしその一方で欧州連合は部分集合としてのヨーロッパを実行に移してきた。通貨同盟にはこれまで11カ国が参加しているし、加盟国間の国境検査を廃止するシェンゲン協約には9カ国が加盟している。

   柔軟思考はあらたな浮揚力を得て、機構改革に関する政府間協議に影響を与えることになろう。現在行われているこの協議では、拡大後の欧州連合の行動能力を保証することが眼目となっている。欧州理事会議長のジェメ・ガマは、先週末のアゾレス諸島における外相会議において、EU諸国の外相に対し、もっぱら欧州委員会の規模、多数決決定および票の再配分に限定されている現在の改革論議の枠組みを越えて、将来を展望するよう求めた。会合の後、ガマは、拡大の諸課題に対応できる根本的な機構改革のための「機会の窓」が開かれたことを認めた。

 「先駆ヨーロッパ」構想の支持者は、元欧州委員長であるフランスのジャック・ドロールの他に、EUの外交担当者の情報によれば、創立6カ国、すなわちフランス、ドイツに加えイタリアおよびベネルクス諸国であるという。スカンジナビア諸国、イギリスおよびアイルランドはこの構想に批判的であり、地中海の若いEU加盟国、ギリシャ、スペインおよびポルトガルは懐疑的もしくは無関心であるという。欧州委員会では先駆構想に対して偏見がない。「私は、一層の柔軟性を採り入れるという考えに賛成である。なぜなら我々は将来、今以上に種々多様な統合要求に迫られるであろうから」とEU拡大担当のギュンター・フェアホイゲン委員は語った。しかし同委員は「ヨーロッパを破壊するような」排他的計画に対しては警告を発した。

 独仏エンジンの再起動

 6年前、CDUの政治家カール・ラーマースとヴォルフガング・ショイブレが、排他的クラブとして「中核ヨーロッパ」の構想を発表した。ラーマースは一週間前にもブリュッセルで再び中核ヨーロッパの理念を提起し、「もしこれがEU条約の枠内で不可能ならば、おそらく条約外で実現を見ることになるだろう」と警告した。ドロールはむしろ、先駆グループ、たとえば創立6カ国または11カ国のユーロ加盟国を相互に結びつける、条約内の条約を考えている。元フランス大統領ヴァレリー・ジスカールデスタンも、元ドイツ連邦首相ヘルムート・シュミットとともに一種の中核ヨーロッパを構想し、協力関係に賛成する同じ顔ぶれの国々を想定している。しかしこのような固定的構成員では可変幾何学のヨーロッパはお役御免の構想となってしまうだろう。

 あらゆる未来のビジョンをよそに、再燃した、協力関係の進展をめぐる議論が示した事態がひとつある。久しく聞こえなかった独仏エンジンが、フランスの議長国就任を目前に控え、また起動し始めたということである。フィッシャーの演説が、ジャック・シラク大統領ならびにリヨネル・ジョスパン首相の国民議会における柔軟性に関する発言からあまり時を置かずに行われたことが、これを裏付けている。自らの考える「重力の中心」の中核としてフィッシャー外相はドイツ・フランスの協力関係を挙げた。

原題:"Quo vadis Europa?"
von: Claudia Kemmer
Fischer denkt ueber die Zukunft der erweiterten EU nach - "Gravitationszentrum" in der EU weitere Variante des Flexibilitaetsgedankens